桜の枝と物理の微妙な関係(笑)

重箱の隅をつつくようだが、その拾四「夜叉桜」で晴明が呪物の本体を祓う場面、あの枝の高さが気になった人もいるのではなかろうか。(お前だけだというツッコミはしない方向でよろしう)
単行本第5巻190ページを見て欲しい。あの場面で晴明が唱えている祝詞の全文は以下の通りである。資料の都合上表記の仕方が『王都』と違うが、その点はご了承を。

掛巻も畏き伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に禊祓へ給ひし時に成りませる祓戸の大神等 諸々の禍事罪穢有らむをば祓ひ給ひ浄め給へと白す事を聞食せと恐み恐みもの白す

さて、第5巻190ページにて晴明は「諸々の禍事罪穢…」という時点でまだ着地していない。
「諸々の禍事罪穢」まで口に出して言うのに要した時間は無茶苦茶な早口で7秒、通常の早さで11秒。某神社の宮司さまによる正式な早さでは29秒だったが(バチあたるかもしれん…)、さすがにそれはないだろう。

高校物理で習う「落体の運動」をここで思い出してみよう。
落下する物体の速度は毎秒9.8[m/s]ずつ増加する。これを重力加速度といい、「g」で表す。落下運動を始めてからt秒後の物体の位置y[m]を求めるには y = 1/2gt2という式を用いる。この式に例の祝詞を読む時間を代入すれば、祝詞を読む間にどれだけ落下していたかを出せるわけである。
すると、無茶苦茶な早口で言ったとして y = 1/2×9.8×72 = 0.5×9.8×49 = 240.1m、
通常の速さだとして y = 1/2×9.8×112 = 0.5×9.8×121 = 592.9m
という驚異的な数値がたたき出される。

ちなみに、240mから(つまり7秒間)落下した時の地表衝突速度は9.8×7=68.6[m/s]、時速に直して約247km/hになり、592.9mからなら同様にして時速は約388km/h!これではいくら天才陰陽師・安倍晴明サマといえども命がない。

だが、ここで少し冷静になってみよう。上の計算では空気抵抗を全く考慮していない。真空状態で落下する羽毛と空気のある状態で落下する羽毛は全く速度が違うのだ(真空下では鉄の玉も羽毛も同じ速度で落下する)。ましてや晴明サマの衣装はゆったりした狩衣と括っていない袴である。とすると、晴明サマは袴が括られていないのを利用してパラシュート状態で降りられたのやも知れず、仮にそうだと考えれば先の計算は何の意味もなさないのである。まぁ、万一失敗した場合はマリリン・モンローの「スカート舞い上がり」状態で落下する事になるのだが…。


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